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福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)675号 判決

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、金一四二万円およびこれに対する昭和四八年五月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

この判決は、第二項に限り、金四〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「一、原判決を取り消す。二、被控訴人は控訴人に対し、金一四三万円および内金一二九万円に対しては昭和四七年一二月八日から、残金一四万円に対しては昭和四八年五月二一日(本件訴状送達の翌日)から各支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに第二、第三項につき仮執行の宣言を求める旨申し立て、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次に記載するほか、すべて原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人の主張

一  控訴人と被控訴人との間に、控訴人の日産火災海上保険株式会社に対する自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償金の請求および受領、復代理人の選任に関する委任契約が成立しなかつたとしても、

(一)  控訴人は野田九州男に対し、同人を代理人として、右賠償金の請求および受領、復代理人の選任に関する一切の権限を委任し、右野田は西岡正に対し、同人を復代理人として右権限を委任し、さらに右西岡は被控訴人に対し、被控訴人を復代理人として、右賠償金の請求および受領に関する権限を委任したものであるから、控訴人は民法第一〇七条、第六四六条により被控訴人が前記会社より受領した金員を控訴人に引き渡すべき義務がある。

(二)  仮に、右西岡が野田の履行補助者に過ぎないものとしても、控訴人の代理人野田が被控訴人を復代理人として前記賠償金の受領に関する権限を委任したものといえるから、被控訴人は右金員を控訴人に引き渡すべき義務がある。

(三)  また仮に、右野田が控訴人の履行補助者に過ぎないものとしても、控訴人の代理人西岡が被控訴人を復代理人として、前記賠償金の受領に関する権限を委任したものといえるから、被控訴人は右金員を控訴人に引き渡すべき義務がある。

二  さらに、以上の主張が理由ないものとすれば、被控訴人は義務なくして控訴人のために事務の管理をはじめたものといえるから、民法第七〇一条、第六四六条により、被控訴人は、右事務を処理するにあたつて受領した金員を控訴人に引き渡すべき義務がある。

被控訴代理人の主張

当審における控訴人の主張事実中一の(一)の控訴人が野田九州男に対し、同人を代理人として、控訴人主張の損害賠償金の請求および受領に関する一切の権限を委任し、右野田が西岡正に対し、同人を復代理人として右と同一の権限を委任し、さらに右西岡が被控訴人に対し、被控訴人を復代理人として右損害賠償金の受領に関する権限を委任したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

理由

一  受領金の引渡請求について

(一)  控訴人と被控訴人間に、日産火災海上保険株式会社に対する自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償金の請求および受領に関する一切の権限を委任する旨の委任契約の成立したことを前提として、被控訴人に対し受領金の引き渡しを求める部分の理由のないことは原判決理由説示のとおりであるからこれをここに引用する(ただし、原判決五枚目裏一行目の「金二四九万円を」の次に「昭和四七年一二月七日」を加える。)。

(二)  次に、控訴人が野田九州男に対し、同人を代理人として控訴人の日産火災海上保険株式会社に対する自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償金の請求および受領に関する一切の権限を委任し、右野田は西岡正に対し、同人を復代理人として右と同一の権限を委任し、また西岡は被控訴人に対し、被控訴人を復代理人として右損害賠償金の請求および受領に関する権限を委任したものであることは当事者間に争いがない。

そして、控訴人が野田に、同人が西岡に順次前記損害賠償金の請求および受領に関する一切の権限を委任するにあたり、控訴人名義の名宛人欄白紙の委任状が順次交付され、西岡がさらに被控訴人に右損害賠償金の請求および受領に関する権限を委任するにあたり、右委任状が受任者欄に被控訴人の氏名を記入したことは、さきに引用した原判決理由説示のとおりである。右認定の事実関係から判断すると、控訴人が野田に、同人が西岡に順次前記損害賠償金の請求および受領についての復代理人選任の権限をも授与したものと解するのを相当とする。

そうだとすると、控訴人と復代理人たる被控訴人間には、民法第一〇七条第二項により、控訴人と代理人たる野田間の内部関係と同一の内部関係が生じたものというべきであるから、本件のごとく被控訴人が委任事務の処理に際して金員を受領した場合には、控訴人は被控訴人にだけその引き渡しを請求しうるものというべきである。したがつて、被控訴人は、右金員を西岡に交付したか否かを問わず、控訴人に対して右金員を引き渡すべき義務があるものといわねばならない。そして、引き渡すべき時期について特段の定めのない本件においては、引渡債務は期限の定めのない債務として、委任者から履行の催告のあつたときから遅滞に陥るものと解するのが相当である(控訴人が本訴提起前に被控訴人に対し再三右受領金の引き渡しを請求したことは弁論の全趣旨によつて明らかであるが、その日時は明確でない)。

二  弁護士費用負担による損害賠償請求について

原審証人森山ヒトヱの証言および弁論の全趣旨によると、控訴人は本訴を提起するにあたり、弁護士小出吉次に本件訴訟を委任し、その際、手数料として金一四万円を支払うことを約し、これを支払つたことが認められる。そして、右手数料の額は日本弁護士連合会の報酬等基準規程に定める手数料の基準を上回るものではなく、また本件のごとき場合の受領者が、その請求権者の引渡請求に対し任意に応じないときは、通常、弁護士に訴訟を委任しなければ権利の実現は困難であると判断されるので、これに要する弁護士費用は前段認定の事実、本件の請求額、認容額、事案の難易等を併せ考えると、被控訴人に賠償させるべき額は金一三万円をもつて相当と認める。

三  以上のとおりだとすると、爾余の点について判断を加えるまでもなく、控訴人の本訴請求中被控訴人に対し、前記受領金一二九万円と弁護士報酬金一三万円の合計金一四二万円、およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日たること記録に徴し明らかな昭和四八年五月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却する。

四  よつて、本件控訴は一部理由があり、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であるから、これを変更することにし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条但書、第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

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